中津居館跡の確認調査の際に出土した一括出土銭である。備前甕に入っていた状態で約50,000枚の銭が出土した。銭の出土量としては現在、県内第二位となる。
甕内に納められていた銭貨については、その多くを97枚でわら紐に通してまとめた緡銭(びんせん)をさらにまとめて、十貫文(銭10,000枚相当)や八貫文(銭8,000枚相当)と高額の流通単位に仕分けられて菰に巻かれて収納されていた。このほか一貫文(銭1,000枚相当)でまとめられているものも確認されている。
銭の大量埋納については中津居館跡の遺跡の性格も含めて経済的備蓄の側面が強いと考えられる。陶器製容器に納められた一括出土銭は地鎮などの祭祀的な埋納や戦乱等による私財の隠匿が想定されがちであるが、中津居館跡の一括出土銭はこうした性格を有さず、経済的性格が強い資料である。また、高額の流通単位にまとめられ菰で梱包された銭は中世の手形である割符(さいふ)に関係しているものと考えられる。割符には十貫文の定額が多く、ほかには五貫文の「半割符」が見られ、中津居館跡出土一括出土銭は十貫文でまとめられた銭が2組確認されており、割符という金融的な行為の実情も反映した出土状況であり、中津居館跡一括出土銭の出土状況が、中世の商取引のあり方を示す資料としても、貴重である。